manaの備忘録

性格の捻じ曲がった高校生manaの備忘録。読んだ本の感想とか紹介とか。

桜庭一樹【私の男】感想

内容(「BOOK」データベースより)
優雅だが、どこかうらぶれた男、一見、おとなしそうな若い女、アパートの押入れから漂う、罪の異臭。家族の愛とはなにか、超えてはならない、人と獣の境はどこにあるのか?この世の裂け目に堕ちた父娘の過去に遡る―。黒い冬の海と親子の禁忌を圧倒的な筆力で描ききった著者の真骨頂。
第138回(平成19年度下半期) 直木賞受賞

ふと気になって読んでみました。

近親相姦という背徳的なテーマですが、とても素晴らしかったです。ただそのテーマ故、人によっては激しい嫌悪感を覚えるかもしれません。

 

桜庭一樹の作品を読むのは初めてだったのですが、この作家さんの特徴なのでしょうか、形容詞や一部の名詞をひらがなで綴った文章が軽やかで、リズム感がありました。ひらがなが多いことに加え、読点も多用しているように感じました。区切りの多さが弾むような言葉のリズムを生み出しているのでしょうか。

冒頭の「私の男は、ぬすんだ傘をゆっくりと広げながら、こちらに歩いてきた。」もうこの一文で息を呑まされました。

 

 

 

 
―――ここから、思いつくままに感じたことを綴っていきます。

 

ストーリーは現在から過去へ、花とその父の淳悟の犯した罪を暴いていく形式です。2人の罪は、法律に反する罪であるcrimeと、宗教上の罪であるsinの両方だと感じます。

本題とはずれるのですがこの"sin"とはとても厄介なものだと思います。線引きがたやすくないうえに、思考した時点で罪だとも聞いた覚えがあります。そもそもそれは罪なのか、そう思わされることさえあります。罪とは何をもって罪とするのでしょうか。

 

とても抽象的に感想を表現すると、

まっくろで、どろどろと生暖かいタールを流し込まれて、ゆっくりと息ができなくなっていき、そして意識が消える――

そんな気分になりました。

 

 文中で「チェインギャング」という(架空の?)絵について、

「あぁ、こんなふうに誰かと、お互いに寄りかかって生きていけたらいいなぁ、って思ったんだぁ。まだ若かったし、いろいろわかってなかったけど。なんていうか、運命的で、いやな感じがして、憧れたの」

「これってさ、大人の女としては、間違ってるのかな。うちのお母さんも、女の自立、ってよく言うけど。わたし、でも、自立なんてしたくないよ、って思うこともある。もっと、誰かとずっといっしょに、どうしようもない生き方がしたいって……」

という言葉があります。

とても響きました。数年前に、お互いにずっぷりと依存して、お互い以外見えなくて、それがよくないことだと分かっていて、それでも離れられない、そんな恋をしたことがあります。恋、というよりも傷の舐め合いだったのかもしれませんが。傷をなめ合って、それでむしろ雑菌を流し込んで、どろどろに腐らせていくような関係でした。あかるい未来なんて見えなくて、そのままずるずると関係を続けていても良いことなんてないと分かっていて、それでも心地よい。

相手も私も俗にいうメンヘラで、そばにいることでそれを悪化させていく状態でした。君と共依存の関係になりたい、そう言われて嬉しかった気持ちを覚えています。メンヘラという言葉で形容してしまえば、客観的に見て、精神異常者の戯言で、病んだ関係と言ってしまうことができます。けれどそれがとても心地よかったのです。

この本を読んでいる時の感覚は、その心地よさでした。黒々とした底なし沼に自分から嵌まりに行く感覚。ゆびさきから腐食していく感覚。

途轍もない快感でした。

 

 

もしこの文章を読んで興味を持たれた方がいたら是非、一度読んでみてください。