manaの備忘録

性格の捻じ曲がった高校生manaの備忘録。読んだ本の感想とか紹介とか。

All You Need Is Kill

「All You Need Is Kill」桜坂 洋著

 

 ハリウッドで映画化されたライトノベルとはどんなものだろう、そう思って読んでみました。

 文句なしに面白かったです。

 雰囲気はちょっと伊藤計画っぽいかな?伊藤計画の打ちのめされるような深みは感じられないけれど、娯楽小説としては素晴らしいです。ラストシーンでは思わず涙してしまいそうになりました。

 

「ジャパンのレストランでは食後のグリーン・ティーは無料だと本に書いてあったのだが……本当なのか?」

 何を言っているのか、と思うかもしれませんが、読み終えた時最も頭に残っていたフレーズです。秀逸なセリフだと思います。どういうことだ、と思われる方は是非読んでみてください。

 

 SFに分類されるのでしょうか、SF好き、アクション好きな人におすすめだと思います。ただ娯楽小説の色が強いように思います。もちろん娯楽小説として書かれたものだろうからそれでいいのでしょうけれど、読んだ後に考えさせられるような、深い小説を望んでいる人向けではないです。

 

 

――――――――――――――――――以下、ネタバレ込みでストーリー解説します。

 

 一言で言ってしまうと「タイムループ×ラブロマンス」でしょうか。

 

 ギタイと呼ばれる謎の生物(爬虫類のような外見だが人間よりずっと密度の高い体を持ち、殺すのは容易ではない)に脅かされている地球。それと対抗する防疫軍の新兵が主人公です。

 主人公は初陣の日、先輩兵士が初弾で殺されたのを見た後、がむしゃらに戦います。しかし絶望的な戦況の中、諦めかけたその時彼の目の前に「戦場の女神」「戦場の牝犬(ビッチ)」と呼ばれる女兵士リタが現れ、強大なバトルアクスを振り回し、彼の前にいた敵を倒してくれます。その時に彼女が言うセリフが、食後のグリーン・ティー云々です。

 彼女のセリフで落ち着きを取り戻した主人公は、最後の武器を手に一体のギタイに狙いを定め、相打ちする覚悟で突っ込み、そして死にます。

 これが一度目のループ(厳密にはループではないのかもしれませんが)です。

 

 出撃の前日の朝、一度目の記憶を持った彼は目覚めます。そこから夢だと考えたり、脱走してみたりしてループを何度か体験した後、彼は覚悟を決めます。彼のいる基地に襲いくるギタイを全て倒す、と。

 時が巻き戻されても、知識は受け継ぐことができる。彼は己を鍛え始めます。兵士たちが使う特殊な装備の訓練から、戦場の女神と呼ばれる女兵士リタだけが使いこなしているバトルアクスを使う事など、様々なことを覚えて彼は強くなっていきます。

 そして何度目かのループで彼はリタに、自分がループを繰り返していることを指摘されます。そして真実を知らされることになります。

 ギタイというのは、他の惑星系に住む知的生命体が、地球を(地球だけではないようですが)自分たちの住むのに相応しい惑星にテラフォーミングするための装置でした。

 そしてタイムループの原因はギタイの能力によるものだと。ギタイの集団にはネットワークの元となる個体(サーバと呼んでいる)が存在し、またバックアップと呼ぶ個体がいくつか存在する。ギタイのサーバが破壊されると、サーバはバックアップを使用して時を巻き戻す、と。主人公は一度目のループで偶然サーバを破壊したため、そのループに巻き込まれたのです。

 リタも別の戦場で同じ体験をし、その経験から以上のことを知ったと言います。ではどう倒せばいいのか、バックアップを全て消してからサーバを倒す、そうすれば巻き戻しは行われず、人類の勝利が刻まれるのです。リタは幾多の戦場でそれを繰り返してきていたのです。

 知ったからと言ってすぐにうまくいくものでもなく、そのループもまた死んで終わります。その後のループで、主人公がループを繰り返していることを告げる時に選ぶセリフが「ジャパンのレストランのグリーン・ティーはたしかに無料だ」というものです。

 主人公たちは何度もループを繰り返し、159回目のループでついにサーバを破壊します。しかし、バックアップはすべて破壊したはずなのに、なぜか次の瞬間主人公は時間を巻き戻されます。

 その、160回目のループで、主人公は今までにないほどリタに接近し、恋に落ちます。出撃前夜を共に過ごした次の朝、リタが本物のコーヒー(本物のコーヒー豆は採れなくなって久しい)を入れている時、それまでのループとは違うタイミングで敵が襲ってきます。コーヒーが冷める前に片を付けられるかな、天然のコーヒーは三日で腐る、腐ったものを飲んでみろ、そんな軽口を叩いて二人は戦場に向かいます。

 そして今まで通り、すべてのバックアップを倒した後、リタが突然主人公に襲いかかってきます。

 彼女は、今までループを体験してきた二人の脳もバックアップとなっており、どちらか片方が死ななければ、ループを抜け出すことはできない、と語ります。だからどちらが生き残るのかを戦って決めよう、と。

 そうして二人は戦い、主人公のバトルアクスが彼女の体を切り裂きます。

 彼女が死んだあと、彼はサーバを破壊し、その他のギタイも倒し、ループは終わります。

 全てが終わった後、彼に残されるのはリタが担っていた人類の希望とでもいうべき象徴的な立場と、ループを終わらせ続けるという世界の駒の一つとしての役割、そしてカビの生えたコーヒーでした。彼はリタが好きだった世界を守るために戦い続けることを約束し、コーヒーを飲み干します。

 

 ざっとしたストーリーはこんな感じですが、サブキャラもキャラが立っていて、到底説明しきれないほどの色々なエピソードがあります。ここまでストーリーを詳細に語っておいて言うのもなんですが、是非一度読んでみてください。

 映画版は設定に変更が加えられていると聞きましたが、是非見てみたいものですね。